お母さんのコンプレックス


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うちの娘が保育園の年中さんの時に引っ越して来た女の子がいました。そのお母さんはとても疲れているように見えました。

家の近くでもたまに見かけます。挨拶を交わすとそそくさと立ち去って行きます。でもどこに住んでいるのか分かりませんでした。私もそのご家庭がどこに住んでいるのか興味はありませんし、詮索する気もありません。その後も挨拶を交わすだけの関係でした。近所なのでどうしても、すれ違う時があるのですが、気まずそうに立ち去って行きます。人目を避けているようにも思いました。

「それにしてもよくすれ違うなあ。」と思っていました。しばらくして理由が分かりました。近所の単身者向けの1Kの賃貸に入って行く姿がありました。先の「親の背中を見て子は育つ」にも出てきたところです。あのご一家が住んだ数年前のことです。我が家の目と鼻の先の場所にあるのですから、よくすれ違う訳です。その場所の前ですれ違った時は、決して家に入らずそそくさと通りすぎていたので私はその後はその道を通るのをやめることにしていました。また近所のコンビニで働くお母さんの姿をうちの娘が見つけて、気まずそうにしていたこともありました。小学校に入学後は登校班が同じであることは明確でした。

もうすぐ小学校という時、娘からその子が小学校のすぐそばに引っ越したと聞きました。その頃からお母さんが明るくなってきました。あれだけ目をそらしていたのに、向こうから目をあわせて挨拶をされるようになりました。その頃コンビニでお母さんを見かけることもなくなりました。

ある日、小学校から5分ほどのスーパではつらつと品出しをするお母さんを見かけました。私はそのそばは通らずに会計を済ませ、スーパーを後にしました。「良かった。」と自分のことのように嬉しく思いました。

シングルマザーになって、とりあえず住んだ単身者向け賃貸と始めたコンビニバイト。先の事を考えると不安で、出口の見えないトンネルの中にいるように感じていたのかもしれません。小学校のそばへの引っ越しと就職は、子どものことを一番に考えたからでしょう。

保育園の卒園文集には、とてもきれいな字で書かれた子どもの字がありました。子ども達のなかで一番きれいな字でした。お母さんがしっかりと子育てをしていることは容易に想像できました。

とりあえず、母子の生活は軌道に乗りました。どんなことがあってもこのお母さんなら乗り越えていけるだろうなあと思いました。